2019/7/29 10:34

IGFがパン屋になったり覆面レスラーがWWEで授業する本【多重ロマンチック的ぼくらのプロレス】

閲覧数:917

IGFがパン屋になったり覆面レスラーがWWEで授業する本【多重ロマンチック的ぼくらのプロレス】
4.0

ケンドー・カシン著『50歳で初めてハローワークに行った僕がニューヨーク証券取引所に上場する企業でゲストコーチを務めるまで』が2019年6月29日、徳間書店から発売された。

プロレス団体から声がかからなくなり、人生の転機を迎えたハローワークにいった覆面姿の50歳が、慶應大学で非常勤講師を務めたり、WWEでその授業内容を披露したり、中国からメールを送ってくる謎の関係者ケリー・ワタナベと会ったり、IGFがパン屋になったり、凛々しい顔の永田さんの引退後を考えたり、和製ドウェイン・ジョンソンの藤田さんや安田忠夫さんと対談したりという新日本プロレス冬の時代やIGFメイニアにとっては垂涎の一冊となっている。

自伝的な部分は前作『フツーのプロレスラーだった僕がKOで大学非常勤講師になるまで』(2017年)でおおむね書かれており、本作を読み解くにはケンドー。カシンの試合後のインタビューやトリッキーな関節技のように、実際プロレスで起こったことがら(と言っても試合内容よりTシャツの柄や裁判、揉め事絡みのサイドディッシュ)を踏まえないと分かりづらく、まったく興味がないとちんぷんかんぷんであろう。

一般的には「サイモン猪木」として知られる人物はケリー・ワタナベやMr.サイモンとして出てくるし、再三注釈される「IGFはパン屋」というのも意味不明。ただし「サイモン猪木」であった人物の本名はサイモン・ケリー・ワタナベになっているのは事実なのだろうし、プロレス団体・IGFを経営していた会社が「銀座に志かわ」として爆発的人気店となっているのもまた事実。リーグ戦優勝のコメントで「ファンの声援のおかげです」でも「俺が最強だ」でもなく、「賞金はコソボに募金」というケンドー・カシン節はまったく変わらず、自分の中の正論と真実をツッコんでいるだけなのだ。

最後の文面もそのまま受け取れば引退メッセージだが、前作やケンドー・カシン語録をチェックしていれば、意図的に行った誤字などから「ある少年の書いたお便り」のパロディだとわかるようになっている。

「プロ・レスリング」という競技そのものがレスリングをはじめとする格闘技全般の小難しさを取っ払い、面白さを凝縮したスポーツであるように、途中説明やセオリーを省き端折ることで、目に見える世界というのは途端に面白くなる。そして飛びつき逆十字の攻防のような文章が飛び交う328ページ。

「人生って味わい深い旅をすることが目的で、どこに向かっているのかが問題じゃないと思うの」とは本書の編者である原彬さんが、前文として寄せるキャメロン・ディアスの言葉だが、まさに“ケンドー・カシンとその仲間たち”の味わい深い変わらなさを堪能できる一冊だ。プロレスファンは一度読んだ後、謎解き本として前作やインターネット検索を駆使して言葉の真意を読み解いてほしい。

この記事を書いたライター: 漁師JJ

コメント

    まだコメントはありません。

おすすめ記事

新しいコメントを投稿する

 [PCから画像ファイルをアップロード]

関連付けられたタグ

なし
[タグを付ける]

<< 一覧に戻る