2016/5/12 20:01

自由という見えない翼~自称WRESTLE-1のエース・KAIの不協和音~【ぼくらのプロレスコラム】

閲覧数:6119

自由という見えない翼~自称WRESTLE-1のエース・KAIの不協和音~【ぼくらのプロレスコラム】
3.9
最新のコメントに移動

「特に自分にテーマがないときとか、地方でKAIなんかと試合やると楽しいんだよね!あいつ、俺との試合から何かを学ぼうとして向かって来るから。そうすると、俺も原点に返るというか、昔を思い出したりしてね。試合だけじゃなくて、練習なんかのときもそうだよ」

かつて全日本プロレス参戦時に"世界一性格の悪い男"鈴木みのるは彼をこう評したことがある。
彼はかつて鈴木みのるに目をかけられていた若手レスラーだった。
その男の名はKAI。
当時の彼は全日本プロレスのジュニアヘビー級戦線で活躍していた若武者だった。

あれから時が過ぎ、現在KAIは全日本を退団し、自称WRESTLE-1のエースとなった。
だがこの"自称"が"自他共に認める"という域にまでいくことはなかった。
KAIのプロレスは何故かファンとレスラー達の心には響かなかった。

先輩レスラーの船木誠勝からマイクでこう言われた。

「WRESTLE-1のエース、お前じゃ無理だ!!」

KAIを破りWRESTLE-1王者となった"人間風車二世"鈴木秀樹はこう語ったことがある。

「ボクはプロレスは格闘技だと思ってやってるんですけど、たとえば、プロレスのデコレーションした部分を強調してるだけで、その根っこは持ってる選手はいると思うんです。中には持っていない選手もいるんですけど。"あ、こいつできないな"と思える選手はいましたよ。いまジーパン履いてごまかしてる奴とか」

このジーパン履いてごまかしている奴とは赤のロングタイツからタンクトップにジーパンのストリートファイトスタイルにコスチュームを変えたKAIのことである。

鈴木から王座を奪還しても会場からは絶賛されることなく、ブーイングに包まれた。
挙句の果てには河野真幸からこんなダメ出しを食らったこともあった。

「先輩も後輩も、デビューしたばっかりの新弟子も、全員テメーがチャンピオンだって認めてねぇんだよこの野郎! ここにいる観客も全員お前のこと認めてねぇってよ!」

プロレスセンスはある、身体能力もある、真面目でストイックな男だ。
それでも人々の心に響かないケースがあるのがプロレスだ。
恐らくKAIというプロレスラーはとことん自己表現がうまくなかったのかもしれない。
不器用でも、泥臭くても、華やかでもいい。
彼は「リングで自分を出すこと」に悪戦苦闘していたのかもしれない。
そんなKAIは"自称"エースから脱却することはできなかった。

少年時代からのファンだった大仁田厚のようなストリートファントスタイルにイメチェンし、翔太と三富政行という二人のインディーレスラーを子分にして活動したり、プロレスライターの小佐野景浩氏と試合後のインタビュールームで謎のやり取りをしたりするも、「何がしたいのかよくわからない」という混沌を生むことになる。

不協和音という言葉がある。
音楽における協和性の低い、不安定な感じを与える和音という意味で、ここから音楽以外でも調和が乱れた状態、調和が取れていない状況をさしてこの言葉が使われる。
KAIのプロレスはまさしくこの不協和音という言葉がしっくりくる。

思えばKAIのレスラー人生も不協和音のようなものだったのかもしれない。
2007年にメキシコでデビューし、凱旋帰国後いきなり勝利を挙げ、全日本ジュニアのホープとして期待され、同年のジュニアリーグ戦で優勝を果たした。
身長もあって、身体能力も高い、ルックスもいい、未来のエース候補と呼ばれるもその後チャンスがなかなかつかめなかった。
2011年に悲願の世界ジュニアヘビー級王座を獲得し、同年の世界最強タッグ決定リーグ戦は真田とのコンビで優勝。
2013年にはヘビー級転向を果たし、同期のチャンピオン・カーニバル2011準優勝の真田聖也を破り、同年のチャンピオン・カーニバルでは準優勝。

まさしくこれからエース街道を走ろうとしていた時に、全日本プロレスの内部分裂に巻き込まれ、彼は全日本を去り、武藤敬司が設立した新団体"WRESTLE-1"旗揚げに参加した。

ここから彼は"自称WRESTLE-1のエース"を名乗るようになるのだが、試合内容の不甲斐なさや不安定さなどの"ボロ"が出てしまった。
敗者髪切りマッチに敗れ、丸坊主になったこともあった。
レスラー達からもダメ出しを食らい続けたこともあった。

プロレスとは人間性が出るジャンルだと言われている。
どんなにキャラクターを演じていたとしても最終的にはその人の個性が出てしまうのがプロレスだ。
KAIのプロレスにはリアリティーがなく、どこか取り繕っているような"つぎはぎ"プロレスに見え、ファンやレスラー達の心に響かなかったのではないだろうか。

2015年7月に鈴木から王座を奪還した際のKAIのマイクパフォーマンスは賛否を呼んだ。
話せば話すほど正統派のkAIはブーイングを浴びた。
そんなKAIを師匠の武藤敬司はこう評した。

「KAIのマイクパフォーマンスでお客とのやりとりはいただけない。。すべて気にするのは(確固たる)意思がないから」

このKAIのマイクパフォーマンスこそ、彼のプロレスは不協和音といってもいい最たる象徴だった。

しかし、この不協和音が時と場合によっては武器になってしまうのがプロレスだったりする。
KAIはストリートファイトスタイルになってから盛んにある言葉を叫び続けた。

「自由」

この言葉を叫び続け、己のスタイルを継続していくと何故かわからないがKAIのプロレスが面白く見えたりしてきたのである。
空気を読まない発言や行動、プロレスマニアぶりが発揮されたりする発言(例:ミスター雁之助の本名をさらりと言ったり)、翔太や三富という子分や小佐野氏とのやり取り…。
ある種の「馬鹿になること」で開き直り、迷走している姿をさらけ出すことで独特の個性を身に着けるようになった。

2016年5月4日、後楽園ホール大会。
KAIは"モンスター"火野裕士が保持するWRESTLE-1チャンピオンシップに挑戦することになった。
火野は冷静にKAIのプロレスについてこう語っている。

「プロレスは自由だし、それぞれのやりたいことをやったらええと思うし。確かに自由やけど、あの人はさらに自由を求めてるのかな?まぁ本人もわかんないでしょ。俺って何なのかなぁ?みたいな感じでしょ。でもまぁその道に迷っているKAIクンを見るのはお客さんも楽しいだろうしね。自分も、引く部分はあるけど見ててちょっと楽しい部分もあるし」

いつしかファンは"迷走中"のKAIを楽しみようになっていた。
どんな姿でもファンの心に届いたのだ。

そして、KAIは火野を破り自身三度目のWRESTLE-1王者となった。
試合後、彼はこう語った。

「ガッツワールド、愛媛プロレス、行きたいところにこのベルトを持って行ってやる。日本中、世界中、宇宙に広めてやるぞー!!」

どこまでも迷走し、どこまでも自由であり続けるKAIの宣言のように私は捉えた。

KAIがプロレスラーになる前にトレーニングを積んだアニマル浜口ジムの先輩である新日本プロレス・内藤哲也は"エース候補"でありながらなかなかファンから支持が得られず、「制御不能」というイメチェンを図り、体制側にとことん正論で噛みつくことで"反逆のカリスマ"となった。

そして、KAIは「自由」になることでようやくファンの心に届くプロレスラーになろうとしている。
彼が奏でてきた不協和音は実は「大空に羽ばたきたい」という彼自身の心の叫びだったのかもしれない。
自由という見えない翼を手にしたKAIは今度こそ、"自他共に認める"WRESTLE-1のエースになるのだろうか…。

この記事を書いたライター: ジャスト日本

コメント

最新のコメントに移動
  • KAIは少し前の内藤みたいな感じですね。主役になりたくてもブーイングされる。内藤は迷走の果てに今のスタイルに辿り着いて支持を得ることになったけどKAIはチャンピオンになったけど、まだファイトスタイルが確立できず迷走してる感じです。これからファンの支持を得られるか…。KAIの…ひいてはW-1の未来がかかってると思うから責任は重いですね。

    ID:5984 [通報]
    (2016/5/13 18:22)
    0 0
    賛成:0% / 反対:0%

    Loading...


  • ええ記事やん。
    こういう思い入れたっぷりの熱のある記事が読みたいんよ。
    普段の大した熱も思い入れも感じない素っ気ない記事とは段違いや。

    これからも豊富な知識いかしてええ記事書いてな。
    なんか上からでスマンナ。

    ID:351839 [通報]
    (2016/5/13 20:54)
    0 0
    賛成:0% / 反対:0%

    Loading...


  • 今のKAIは好きだが、大仁田というより大家健の様だ(笑)

    ID:505874 [通報]
    (2016/5/15 1:05)
    0 0
    賛成:0% / 反対:0%

    Loading...


  • 、確かに以前のKAIよりはある種の吹っ切れた感じがしなくもないが、ファイト内容が進歩したとは思えないし、W-1のエースとは到底言えないと思う。こういうヤツがいてもいいかなとは思うが、エースじゃない。

    ID:61151 [通報]
    (2016/7/30 19:26)
    0 0
    賛成:0% / 反対:0%

    Loading...


おすすめ記事

新しいコメントを投稿する

 [PCから画像ファイルをアップロード]

関連付けられたタグ

 ぼくらのプロレスコラム
[タグを付ける]

<< 一覧に戻る